夜行バス

周りの気配に感覚を研ぎ澄まさすと、「夜行バス乗り」の人々はマニュアルがあるかのような素早さと上品な佇まいで眠りの型にはまっていた。普段から咀嚼音や生活音などの雑音に対して病的なまでの反応を反射的に行う私にとっては、過ごしやすい空間に出会えたことに対する素直な喜びではなく、自らの無知と偏見を恥じる暗闇に落とされる要因に十分になり得る現実だった。

ストレスから少しでも遠ざかれるように持って来た耳栓は左ポッケの中から出される事はなかった。若干の自己嫌悪に囚われながら眠ろうとしたが、不眠が続きもはや眠るということに対して諦めを覚え始めていた頃だったのでもちろん意識はすぐ手放せなかった。

なんとなく考え事をしていた。大好きな男の子が教えてくれた音楽をリピート設定にして5時間ほどずっと聴き続けた。1時間経ったあたりでもう歌える気になり、練習したい気持ちが止められなくなって来ていた。躁鬱の躁の状態になった私は突然夜行バスに乗っているという事実を思い出し、ウキウキしだしたがすぐに落とされるようなことを思い出す。そういえば、あの子、誘拐されてないか?